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高松高等裁判所 昭和43年(ネ)163号 判決

控訴人 三原勇

被控訴人 木谷ヒサノ

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。控訴人と被控訴人との間に於て五、〇〇〇円を越える債務は存在しないことを確認する。訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並に証拠の提出は原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

一  本訴と当事者を同じくする徳島地方裁判所昭和四二年(ワ)第一七二号事件(以下単に一七二号事件ともいう)につき昭和四二年一二月二六日原告(本訴の控訴人以下単に控訴人という)敗訴の判決言渡があり、控訴人より控訴がなされて当庁昭和四三年(ネ)第四五号事件として係属していたが、同事件の昭和四三年五月一日の口頭弁論期日に当事者双方が出頭せず、その後三ケ月以内に期日指定の申立がなかつた為、同年八月一日の経過と共に控訴取下げとみなされることにより右控訴審の訴訟は終了し、前記一七二号事件の第一審判決が確定したものであつて、右事実は当裁判所に顕著である。

二  而して右一七二号事件に於ける請求の趣旨は「控訴人を借主、被告(本訴の被控訴人以下単に被控訴人という)を貸主とする昭和三六年九月一一日締結の金銭消費貸借契約(元本金三五万円)に基づく控訴人の被控訴人に対する債務は、元本残額金五、〇〇〇円を越える部分は存在しないことを確認する。」というものであるが、その請求原因として主張するところによると、被控訴人は右消費貸借契約に基づく債権を担保する為控訴人所有の不動産に設定されていた抵当権の実行の申立をなし競売開始決定がなされた為、控訴人は昭和四〇年一〇月一一日徳島簡易裁判所に被控訴人を相手方として即決和解の申立をなし(同庁同年(イ)第三七号事件)同日右当事者間に大要「控訴人は右消費貸借契約に基づく六〇万円(元本三五万円、利息二五万円)の支払義務あることを認め、これを一〇万円宛六回に分割支払をなす」旨の和解が成立した。然し右のうち利息二五万円の部分は、本来の消費貸借契約には利息の約定がなかつたのにこれあるものと誤信した結果その支払を承認したものでこの部分は要素の錯誤によつて無効であり、又右和解成立前に控訴人より二回に合計四万五、〇〇〇円を支払い、和解成立後三回に合計三〇万円を支払つたので、結局残債務は五、〇〇〇円であるのに、被控訴人は尚三〇万円(即ち和解調書記載の六〇万円から、右三回に合計三〇万円弁済した残額)の債権を有すると主張するので、右五、〇〇〇円を超過する部分の債務の存在しないことの確認を求める、というのであつて、これによると右訴訟の訴訟物は結局、右和解調書記載の六〇万円の債務の中既に弁済を了した三〇万円を除く残余の三〇万円の中、五、〇〇〇円を超過する部分即ち二九万五、〇〇〇円の債務の存否の確認であると解される。一方本訴に於ける訴訟物についてみるに、控訴人の主張する請求原因事実は右一七二号事件に於けるそれと殆ど同一であるから、その請求の趣旨として述べている控訴人と被控訴人との間に於て五、〇〇〇円を越える債務が存在しないことを確認する」というのは、結局は前記和解調書記載の六〇万円の債務中三〇万円弁済した残額三〇万円の中、五、〇〇〇円を超過する部分の債務不存在の確認を求める趣旨のものであると解されるのである。そうすると両訴の訴訟物は全く同一であるといわねばならない。

三  以上の如く、一七二号事件と本訴とは当事者並に訴訟物が同一であり二重訴訟の関係にある為、原判決は本訴を民訴法二三一条により不適法な訴として却下の判決をなしたものであるが、これに対する控訴人の本件控訴により当審に係属中、前認定の通り一七二号事件については控訴取下とみなされることによつて控訴人敗訴の第一審判決が確定し、ここに二重訴訟の関係が解消されるに至つたものであるから、現段階に於ては本訴を不適法として却下することは許されず、本案については審理するを要する状態となつたものといわねばならない。ところで民訴法三八八条によれば訴を不適法として却下した第一審判決を取消す場合に於ては控訴裁判所は事件を第一審裁判所に差戻すことを要する旨規定するが、以上認定したところによれば控訴人が本訴に於て不存在確認を求めている債務は既に一七二号事件に於ける請求棄却の判決が確定したことにより、既判力を以てその債務が存在することに確定されたものであり、爾後控訴人は右確定判決に牴触する主張をすることが出来ず、裁判所も又これに牴触する判断をなし得なくなつたものであり、その結果控訴人の本訴請求は排斥を免れないこと極めて明白となつたものである。而して斯る場合は原判決を取消して本訴を原裁判所に差戻す必要はなく、当審に於て直ちに控訴棄却の判決をなし得るものと解するのが相当である(大審院昭和一〇年一二月一七日判決、民集一四巻二三号二〇五三頁、同昭和一五年八月三日判決、民集一九巻一六号一二八四頁参照)。

よつて控訴費用の負担につき民訴法九五条八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 合田得太郎 奥村正策 林義一)

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